日本語の「やばい」の意味って、Good or Bad?
言葉は、ずっと同じ意味で使われるとは限らない。
時代の変化と共に変わっていくものだ。
「米津玄師の新曲、ヤバイよね」
みなさんは、この「ヤバイ」、どういう意味に捉えるだろうか。
使い方は何ら間違いがないので、良いとも、悪いとも捉えることができる。
そうなると、会話の前後の文脈を考えて判断することが正しいと言えるだろう。
ちなみに、この場合は、「良い」意味での「ヤバイ」を想像する方が多いのではないだろうか。
そう、「米津玄師の新曲、最高だよね」という意味だ。
私は以前フィリピンで、日本語パートナーズというフィリピン人日本語教師のアシスタントとして働いていたことがある。
生徒は、現地公立校の中学3年生から高校1年生。
まだ日本語を習って間もないので、授業は、ひらがなの書き方、単語や定型文の発音練習をメインとしていた。
生徒たちはそのようなレベルだったが、フィリピン人日本語教師は、私と簡単な日本語でコミュニケーションをとることができた。
さらにその先生は、社会科の教員であるにもかかわらず、日本語に興味があるといって、日本語の勉強をずっと続けていた。学校では、社会科と日本語の授業を受け持っており、とても忙しくしていた。
ある日、先生からこんな質問された。
「sakeeさん、『やばい』は、Goodですか? Badですか?」
私はこう答えた。
「あー、『やばい』ですね。両方の意味があります」
そして、続けた。
「先生は、どうやって『やばい』を覚えましたか?」
「日本のドラマです。『おまえら、やべぇぞ』と、ヤンクミが言っていました」
それは「ごくせん」ですね、と心のなかでつぶやき、あの日本語をそのまま覚えたら、それこそヤバイだろうな……と思った。ある意味ではおもしろいけど。
次に、先生にこう伝えた。
「ヤンクミが言っていた『やべぇ』は、『やばいのスラング』みたいなものです。丁寧ではありません。そして、意味はBadだと思います」
「そうですか。GoodとBadの違いが分かりません。むずかしいです」
そうだと思う。明確な違いはないのだ。でも、せっかく日本語ネイティブとして近くにいるのだから、何かヒントとなるようなことを教えてあげたい……。
それで、こう答えた。
「先生、『やばい』をGoodの意味で使うのは、だいたいヤングの人たちです。Badの意味で使うのは、オールドの人が多いです。でも、これがすべてではありません」
「ああ、そうなんですね」
先生は、「なるほど」といった表情をしてくれた。少しは分かってもらえただろうかと心配になったのを、今でも覚えている。
私が若いころ、「やばい」は、悪いという意味で使われることが多かった。
「ヤバイ! 忘れ物した!」とか、「テストの点数、ヤバイよ」とか。
それが、いつからだろうか。ここ10年くらいのことか、「やばい」が「良い」という意味で使われるようになったのだ。
「その服、ヤバイね」とか、「ヤバイ曲あるから聞いてみる?」とか、「あのドラマの○○くん、マジやばい!」とか。
このことを考えると、ここ十数年で、若者がこの使い方を広めたと考えるのが、妥当な気がする。
言葉は、生き物である。
昔から使っている言葉の使い方が、時代の変化と共に変わってきているのだ。
生き物がゆえに、どういう道をたどっていくかは想像できない。
この「やばい」も、数十年前は、まさか良い意味で使われる日が来るとは、誰も考えなかっただろう。
そして、このような、言葉を変化させる文化の最先端にいるのが、若者である。
彼らの言葉を聞いていると、自分には理解できないものや、かろうじて理解できるがそんな使い方をするのか、と感心するものがある。
職場にいる若者と話していたときのことだ。
「sakeeさん、今日残業します?」
「今日、用事あるからできないんだ」
「あー、察し」
……笑った。察してくれたのか、と。
これも、ひと昔前ならこんな使い方はしなかっただろう。でも、意味は理解できる。
こういうのを聞くと、なんだかおもしろい。
自分では使いこなせないにしても、知っていることで若者に対する理解の幅が広がったように感じる。
フィリピンの先生からの、「『やばい』は、Goodですか? Badですか?」という質問。
これに対する明確な答えは、やはり見つからない。
昔はBadでも、今はGoodだし、未来はまたBadに戻ってしまうかもしれない。
しかし、それも含め、生き物である言葉の「成長」を楽しむことによって、その言葉の本来持つ意味を考慮して、私たちの生活に根付いたものになっていくのだろうなと、私は思う。
ひとつひとつの言葉には、意味がある。
そのひとつひとつを大切に噛みしめ、言葉を選んで使っていきたい。
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