10年勤めた会社を辞めて、後悔したこと
4年前、10年間勤めていた会社を辞めた。
後悔したことは、ひとつもない。
会社を辞めてから経験したことは、会社に勤めていた10年よりもずっと価値のあるものだったからだ。
もし、今、会社を辞めるかどうか悩んでいる方がいるならば、ひとつの意見として聞いて欲しい。
当時、私は地元の中小企業のインターネット通販部門で、受発注に関する業務全般を担当していた。
通販サイトからパソコンやケータイを通じて注文をしてきたお客様の受注処理、電話やメール対応、メーカーへの発注などが主な業務だった。
近年のインターネット通販業界では、「速さ」と「安さ」の両方が重視される。
ひと昔前は、どちらかの妥協が必要であった。
「届くのが速ければ、多少の値段が高いのは仕方ない」とか、「届くのは遅いけれど、急いでいないから安いほうがいい」とか。
しかし、最近はその両方を兼ね備えていなければ、すぐに別の店舗をクリックされてしまう。
そんなワケで、お客様の受注処理はもちろんのこと、電話やメールの返信もできるだけ速く対応しなければならなかった。
その部門は、会社のメイン事業ではなく、小さくて限られた人数で業務を進めていたため、席についているあいだは、息をするのを忘れるくらいの速さでパソコンを操作していた。
やっと息をすることを思い出すのは、電話が鳴ったとき。
一時的に仕事を中断して、受話器を取る。対応が終わったら、またすぐにパソコンに向き合う。
そんなことを10年続けていたら、あるとき、激しい胃腸炎に見舞われ、一気に体重が4キロくらい減った。
またあるときは、頭痛がひどく、早退して車を運転している途中に目の前が真っ暗になり、アクセルを踏めないときもあった。
肩がガチガチに凝って、頭痛がするのは日常茶飯事だった。
こんな仕事辞めたい、ずっと思っていた。
でも、そんな気持ちと背中合わせに、10年続けているメリットを考えると、なかなか一歩が踏み出せなかった。
会社の環境や人間関係に慣れている、給料も上がってきた、ボーナスももらえる。
母親に相談すると、「そんな待遇のいい会社、最近ないよ。十分じゃない」と言われた。
そう、年配の人に相談すると、みんな口を揃えて「安定志向」を語るのだ。
そのとき、私は思った。
こんなにもつまらない、毎日、自分を消耗するような仕事で安定して、何になるんだろう。
この仕事で、自分は日々、何か向上できているんだろうか。
自分には転職できるだけのスキルがないと思っているけど、本当にそうか。ただ、何もやろうとしていないだけじゃないのか、と。
そう気がついてから、私は自分にできることから始めた。
私の目標は、海外で働くこと。
業種? 決まっていない。でも旅行ではなく、仕事をしに行きたかった。
旅行が好きだったため、もともとトラベル英会話を勉強していたが、さらに学習を深めた。
日常英会話に加え、仕事に応募するときに必要となることが多いのでTOEIC対策もした。
仕事をしつつ、勉強もしていたあるとき、Facebookで海外ボランティア募集の広告が目に留まった。
締切りまで、あと3日。
応募要件を見ると……、私でもできる!
その夜、すぐに応募した。
そして、次の日、上司に伝えた。
「この海外ボランティアに応募したので、退職したいです」と。
上司は、「残念ではあるが君を止める権利はない。がんばって」と快諾してくれた。
書類選考や面接を経て、私は見事に合格となった。
そのときのうれしさは、今でも忘れられない。
後日、上司に結果を報告すると、「本当に受かったんだ」と驚きの声を上げていた。
実は、私からこの話をされたときに、結局受からずに、もう少しここで働かせて欲しいと懇願されると思っていた、ということを聞いた。
慣れ親しんだ会社を辞めるということは、髪型を変えるようなものである。
今まで、同じヘアスタイルをずっと続けていたが、美容室で思い切って新しいヘアスタイルにすることで、自分に自信がでてきて、何で今までこうしなかったんだろうと思えてくる。日々を過ごすのも楽しくなる。
仕事も同じで、目先のメリットばかりに気をとられ、ずっと同じことをしていても、次第に飽きが生じてくる。
思い切って自分のやりたいことを目標にして仕事を変えることで、新しい自分に出会えたり、やる気がでてきたりして、仕事が楽しいと思えるようになる。
今まで給料やボーナス、環境にばかり捉われていた自分が、ウソのように消え去っていく。
今、私は、アルバイトという形で美容師をしている。
海外ボランティアから帰ってきてから、派遣社員やアルバイトという形態で働いている。
正社員を望んではいない。
収入は減りはしたが、まったく後悔はしていない。
むしろ、フットワーク軽く動けるので、今の時代に合っていると思っている。
自分の幸せを決めるのは、自分だ。
会社を辞めるというのは、大きな覚悟がいることである。
しかし、その先にいる新しいヘアスタイルの自分を想像して、自分が楽しいと思える生き方を選ぶことで、今はゴールが見えなくても、自然と人生がいい方向に動いていくのではないかと、私は思う。
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