日本の「あたりまえ」を海外で感じた私が思ったこと
「ねぇ、マダム。お子さん、ここに乗せるよ」
その女性は、母親に連れられた見ず知らずの子供を、自分の膝の上に座らせた。
私は海外旅行が大好きだ。
以前は、海外旅行のために働いていた、と言っても過言ではない。
人生で初めて訪れたのは、ロンドンとパリ。専門学校の修学旅行だった。
建物、ファッション、生活のすべてがカッコよくて、日本にはない魅力にすぐさま魅了された。
最新と歴史が融合されて、自分がテレビや雑誌で知っていたものよりも、実際に見たものや感じたものは、とても斬新に映った。
その後、アジアやアメリカ、ヨーロッパの国々を訪れた。どの国もとても魅力的で、楽しかった。
その中でも、私にとっていちばん印象深いのは、フィリピンである。
実は、フィリピンを訪れた目的は旅行ではなく、語学留学とボランティアのための長期滞在だった。
私はそれまで海外に、10日以上滞在したことがなかったので、本当に大丈夫かと心配になった。案の定、体調面などで大変なことはあったが、今にして思えば、とてもいい思い出、そして、経験だった。
そこで、私が感じたこと。
それは、人々のあたたかさである。
日本の昭和を思わせるような、ちょっとおせっかい、でも、心があたたかくなる、そんな気持ちだ。
ある日、トライシクルというサイドカー付きのバイクで、目的地へ向かっていたときのことだった。
地域にもよるが、フィリピンでは、一台のトライシクルに、目を疑うほどの人数のお客を乗せる。MAX6人。1台のバイクで、ドライバーを含め7人乗っているという計算。完全に重量オーバ―だ。
それに加え、一人分のスペースは極狭で、周りの人との距離が近い。いや、近いなんてものではない。密着である。最近の、ソーシャルディスタンスという観点からしたら、一発アウトだ。
その日、私は、比較的広めの座席に座っていて、あとから次々を乗客が乗り込んできた。
このトライシクル、最後の乗客は、半身がサイドカーからはみ出してしまうのが、通常スタイル。シートベルトなんてないし、もし手すりから手を放せば、道路に投げ出されてしまう可能性もある。デンジャラスシートだ。
そうこうしている間に、最後の乗客が乗り込んできた。その女性はおそらく母親で、3歳くらいの子供を連れていた。
最後に乗り込んできたということは、あのデンジャラスシートに、お母さんに抱っこされて座るのか……。
危ない。
子供がサイドカーの外に出てしまう。
そう思って、私が席を譲ろうとしたときだった。
「ねぇ、マダム。お子さん、ここに乗せるよ」
手前にいた別の女性が子供に声をかけて、自分の膝の上に乗せたのだ。
それを見たとき、あぁ、こういうこと、日本ではないよなぁ……と思った。
電車で、お母さんが大変そうだから、他人の子供を抱っこしてあげる、なんて……まず、ない。
それが、日本の「あたりまえ」だ。
果たして、本当に「あたりまえ」なんだろうか?
今の日本社会では、電車で子供が泣こうものなら、お母さんは肩身の狭い思いをして、必死で子供を泣き止ませる。それができないときは、電車から降りてしまう。
周りの人たちの冷たい視線や、不快な感情を感じ取るからだ。
その日本では絶対ない光景を見て、微笑ましく思うと共に、こうも感じた。
なんだか、日本って窮屈な社会だな。
他にもある。
フィリピンの人たちは、基本的に歌とダンスが大好きで、移動中や仕事中にもそれらを楽しんでいる。
え? 仕事中とは……?
と思われた方もいるかもしれないが、ショップスタッフなどは、お客さんがいないときにノリノリでリズムをとったり、口ずさんだりしている。
ふむ……たしかに上手いけれども……。
そう、みんな歌もダンスも上手い。ある一定以上のレベル。笑ってしまうようなヘタな人は見たことがない。
バスの中でも同じようなカンジのことは日常で、ヘタすれば、自分のケータイで音楽を流している。イヤホンなしで。
これも、日本なら、ありえないことだ。
ところが、フィリピンではそれを注意することもなく、迷惑な顔をすることもない。むしろ、一緒に口ずさむ人がめずらしくない。
そのおおらかな、ある意味テキトーなお国柄に、いい意味でのカルチャーショックを感じた。
海外は、日本の鏡である。
海外の異文化体験では、その国のいいところを感じることできると同時に、日本の残念なところを映し出してしまうことがある。
しかし、鏡に映るものは、元をたどれば、同じものだ。
かつての日本や、いまでも田舎のほうでは近所づきあいが盛んで、人と人との距離が近い。
ちょっとおせっかい、でも、心があたたかくなる、そんな気持ちになれる。
鏡に映った自分を見て、自分の身なりを整える。それと同じことだ。
海外のいいところを発見して、自分なりに感じ、なにかいい方向に変えてみる。
そうすることで、鏡に映った日本と海外がつながる、つまり、自分と海外がつながることができると感じている。
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